2005.1.13

私の看護日記
病棟看護師 山崎ひとみ

 ある時、リハビリを目的として、86歳男性のAさんが入院されました。Aさんは一瞬風でも吹いたら飛ばされそうな位とても小柄なおじいちゃんでした。入院当初はおとなしく、身の周りはほとんど自立されていました。ちょっと気になるのは、キョロキョロ周りを見ながら挙動不審っぽく、歩き方もお酒を一杯引っ掛けた後みたいに千鳥足でした。

 入院して1週間位経ち、Aさんの行動がすこしずつ変化してきました。荷物を風呂敷につめトイレに行くにも、食事時でも片時も大きな風呂敷を離さず抱えていました。その風呂敷が、体より大きくて後ろから見ると風呂敷が歩いているのかと思うほど・・・
 しかも右に左にとよろめきながら・・・
 Aさんにどこに行くのですか?と訪ねると”小便“とぶっきらぼうに・・・
 確かにトイレへ、それも風呂敷持参で!・・・
 いつかバランスをくずして転んでしまうのではないかと心配しながら見守るようにしていました。
 そんなある日、昼食介助の忙しい時間帯が過ぎほっと一段落ついたと思った時、そういえば風呂敷を抱えたAさんの姿がない! まさか!? トイレで倒れている? 病院中手分けして探してもいない。もしかして家? いちもくさんに私はAさんの住所をたよりに自宅に向かいました。(当のAさんは歩き疲れ座り込んでいたところを、ガソリンスタンドのスタッフに声をかけられ自宅に送ってもらっていました。) 中に入ると、Aさんご夫婦が仲むつまじくこたつに、
 その日は病院へは私ひとりで帰ることになりました。その後も看護師の目を盗んではAさんの脱走は続きました。救急車やパトカーで帰院することもありました。おまけに病院に着くなりその警官を蹴って看護師の後ろに隠れる始末。
 しかし、Aさんはただ“おばあちゃんに会いたい”“家に帰りたい”という一心でやっている行動。Aさん夫婦を切り裂くことは決してできないでしょう。今でも、Aさんは‘ロミオとジュリエット’、私は‘走れメロス’であったように思いおこされます。

 高齢化社会に伴い患者さまの平均年齢も右肩上がりです。高齢の入院患者さまの場合、認知能力の問題とやはり長年過ごしてきた我が家に帰りたい、という想いで予想外の行動をとる場合があります。
 そんな時、入院される意味を考えさせられてしまう今日この頃を過ごしている看護師です。
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