2005.3.1

十人十色
病棟看護師  齋藤 詩子

 働き始めた頃、学生時代とは違って人の命を預かるという責任の重さに押しつぶされそうになっていた。患者さまを看るというより、患者さまに私の態度や行動を見られていたのだろうと思う。あれから早いものでもう4年がたつ。人間一人一人が違うのは当たり前だが、患者さまも十人十色である。

 〜ストップウォッチ片手に看護師の行動をチェックし、少しでも遅れたものなら大激怒!!「本当はとても気が弱いんですよ」と奥さんは言っていた。
 〜〜水分制限があり、ごくごくと水を飲むことができないため氷をガリガリとかじって毎回ナースコールで氷を注文してくる。「氷、お願いね」と。部屋へ行くと大きな水筒を用意して待っている。水分制限の意味がなくなってしまうため氷はいつも5〜6個ずつしか入れないようにする。意地悪じゃないけどね。〜〜夜間の巡視で部屋を覗くとベッドいるはずの患者さまがいない!しかし、名前を呼んでさがしてみるとベッドの下に「静かにしてくれよ」と言わんばかりの迷惑そうな顔をして寝ているではないか。一瞬青ざめたがホッとした瞬間であった。
 〜〜骨折して歩けないはずの人が、歩いてしまっている。「ちょっと痛いね」と一言つぶやいていた。
 〜〜癌と宣告された17歳の女の子。「看護婦さんって大変ね、頑張ってね」といつも笑顔で声をかけてくる。抗癌剤治療で髪の毛は抜けて体力も落ち、青白い顔。夜間巡視の度に目が合う。眠れていないようだ。若いためか、癌も成長していく。ある日、先生からの話の後、初めてその子の涙を見た。小さな肩が震え「こわいよ、まだ死にたくないよ・・・」余命半年である。翌日からはまた笑顔があった。しかし、目は笑っていなく、必死に笑顔をつくっているのがわかり胸が押しつぶされそうで、涙がこみあげてきて声がでなかった。
 〜〜70代の胃癌の男性。以前入院したことのある患者さまだが、ある日、なぜかその人のことが脳裏に浮かんだ。翌日入院してきた。数日後、退院したがまたある日、ふと頭をよぎった。翌日、入院してきた。初めての入院の時に色々と話を聞いたからだろうか?妙に心に残っていた。 日に日に体力が落ちていく姿を見るのがとても辛かった。「齋藤さんの笑顔を見ると元気が出るね」そう言われ、逆に元気をもらっていたのかもしれない。もう一度会いたいな、と思うが。

 〜様々な出会いや経験を通し、学ぶことが多々ある。これからまた、何十人何百人を看ていくだろう。一人一人を大切に一生懸命に、そして楽しく看護していきたい。そう思った今日この頃である。
Copyright© Kouseikai Suzuki Hospital All Rights Reserved.