2005.7.25

サルから人間になって
病棟看護師  末永 信子

 私が看護師になって、たくさんの患者さまとの出会いがありました。新人看護婦の頃、看護師としての知識も技術も未熟でした。長いこと父と二人暮らしで、関東に出てきてからは一人暮らしだった私は、いろんな年代の方と接するのも初めてで、患者さまとの会話の中の冗談に気づく余裕もなく「悪い所?頭かな。ちょっと今の冗談だよ!?」と慌てて訂正される事もありました。
 覚える事もいっぱいだし、人の命がかかっているというプレッシャーもあり「もう無理ですー。向いてないよー。田舎に帰ってスーパーのレジ打ちしよう。」と毎日思う日々でした。それでも多くの患者さま・先輩看護師・周りのドクターから助けられ、サル看護師だった私もだんだん人間に近づいてきました。

 働き始めて4年目くらいの夜勤で、熱発している若い女性の患者さまに座薬を挿入しました。(熱の出ている時には、熱を下げる目的で肛門から薬を入れる。)若い女性が同姓とはいえ、同じ年代の看護師に座薬を入れてもらうのは恥ずかしい事だと思います。ただその方は、あまりの高熱で体の自由も効かない状態だったため介助をすることになりました。薬効があって、熱が下がり、私は次の勤務帯の看護師に代わり勤務を終了しました。次にその患者さまに出会ったのは、退院の日の朝でした。「あの時は本当にありがとうございました。あれからすごく楽になって助かりました。」とかなり丁重にお礼を言われました。その時に私がまず思ったのは、「えっ!ただ当たり前の事をしただけで、薬は先生の指示だし、他の看護師でも絶対同じ事をしたし、座薬を入れられる立場の方がはずかしかったろうし、それでこんなにお礼言われるなんて申し訳ないよー。」でした。そして改めてあの時の患者さまの苦痛というものを再認識しました。そして私たちが当たり前のように行っている看護行為が、患者さまにとっては、印象深いものであるのだなと、思いました。

 看護学校の恩師が『看護師を志したきっかけ』を話してくれたときに「だって私たち仕事として当たり前の事をしているだけなのに、お給料ももらえて、その上ありがとうって感謝もされる。こんないい職業ってないなって、思ったのよー」とおっしゃっていました。私はなるほど、と思い、そして今でもへこむ事があると、この言葉を思い出します。社会も医療も変化し、看護師に求められているものも、より広がり、深く高度になっていると思います。まだまだ自分の未熟さに頭をかかえ、周りの方々に助けられている日々です。
 患者さまよりの『ありがとう』の言葉を大切にして、それをパワーや感謝に変えていけるよう、これからもがんばっていこうと思います。
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