2005.12.28

忘れられない言葉
2病棟 主任看護師 楠木明子

 早いもので、看護師になってから20年以上が過ぎました。看護師である期間のほうが、看護師でなかった期間より長くなってしまいました。そんな中で今でも忘れられないいくつかの言葉があります。そのことを書いてみようと思います。

 ひとつめは、まだ看護学生だった頃に聞いた言葉です。その時、私は某精神・神経センターで精神科実習を行っていました。閉鎖病棟で、まだ病状の落ち着かない患者さまが多く入院されていました。その中で、私たちの身体に触る患者さまがいらっしゃいました。とても嫌なことではあるけれども、“病人だから仕方がない”と私たちは注意も抗議もしませんでした。しかし、指導にあたっていた看護師が「どのような人が相手でもいけないことはいけないと言わなくては駄目だ。」と言ったのです。言われて、私は患者さまを差別している自分に気づきました。“どうせ精神を病んでいるのだから言っても無駄だ”と・・・。状況や立場であたりまえの事ができなくなりそうな時、思い出す言葉です。

 ふたつめは、就職して4〜5年たった頃だと思います。癌の末期の患者さまのところで主治医とふたりでお話を聞いていたときです。患者さまは「今の自分はただベッドに横になっているだけで、自分のことも自分でできない。他人に迷惑をかけるだけで早く死にたい。」とおっしゃって泣かれました。その時、主治医や私がなんと声をかけたかは覚えていません。それから何か月か後、その医師と飲む機会がありました。彼は、「あの時、君が泣かないから俺は一緒に泣いてあげられなかったよ」と言いました。そのころの私は、患者さまの前で感情を表すのは良くないと考えていました。患者さまが亡くなられたときでも泣いてはいけないと教えられてもいました。しかし彼の言葉で、患者さまの近くに立っていない自分に気づきました。一緒に泣くことが正しいというわけではありません。その時の患者さまの心を受け止めることが大切で、そのためには禁忌を持っていないほうがよいということです。柔軟な心と頭が必要なのだと思いました。

 最期の言葉は、このスズキ病院でのことです。患者さまが亡くなられた時にご家族の方から「あなたが見取ってくれてよかった。彼女も喜んでいると思いますよ」と言っていただきました。このような言葉は看護師にとってすばらしいご褒美で、看護師になってよかったと思えるときです。仕事を続けていく上で、ささえとなるような一言でした。これからも、患者さまに寄り添った看護ができるよう努力していきたいと思います。
Copyright© Kouseikai Suzuki Hospital All Rights Reserved.