2008.1.21

訪問看護
外来看護課長 佐藤ミイ子

 私が始めて訪問看護に携わるようになったのは、約10年前になります。

 一人でスタートした訪問看護、30日間の研修を受けたと言っても、すべてが手探りの状態で心細い日々でした。しかし回を重ねるごとに、病院内では感じることのできない患者さまとのふれい・やりがいを感じ、少しずつ訪問が楽しくできるようになりました。
 そして、その頃に出会った患者さまのなかにA子さんがいました。80代のA子さんは雑居ビルに一人暮らしで生活保護をうけていました。子供は4人いますが、皆さん遠くに住んでおり、月に1度長男がみえるだけでした。急な階段を3階まで上がるとそこがA子さんの部屋、初めて訪問したときには、とにかくきたなくてびっくり、2部屋あるうち1つは布団で占められ、もう1つは家具と荷物そしてゴミのやま、訪問した私のいる場所は座布団1枚のみ、室内はカビの臭いと尿の臭い、ノミやダニの心配もあり、とても療養できる環境ではありませんでした。A子さんは腰が悪く歩くのが大変、階段もあるためゴミ出しが出来ないのです。そしてさらにA子さんは、物を捨てられない人だったのです。
 この環境を何とかしなければと思い、福祉の担当者と共にA子さんの了解を得、何度か長男に電話をし、はじめのうちは、「仕事が忙しい」「体が悪く病院通いをしている」などの理由で、なかなか協力を得ることができませんでしたが、月T〜2回の働きかけをつづけ、やっと協力を得て大掃除が終わるまで、約1年かかりました。
 その後A子さんは、体調を崩し長期入院、一人で暮らすことは無理なため、施設(特別養護老人ホーム)に入ることになりました。退院の日、お迎えのストレッチャーにのっているA子さんに「元気でね」と声をかけるとニッコリと笑顔をみせてくれました。果たして私のことがわかったのでしょうか?

 あれから7〜8年過ぎました。外来で同姓の患者さまがいると、ふとA子さんのことを思い出すことがあります。あの少し寂しそうな笑顔、そして元気でいるだろうかと…
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