2009.3.15

おくりびと
2病棟看護師  泉山 樹里

 先日、『おくりびと』がアカデミー賞の外国語映画部門賞を受賞した映画であることは、みなさまもご存知と思います。私はまだその映画を見ていません。テレビのワイドショーで特集を見た程度です。

 看護師という職業上、葬儀業者との関わりはありますが、納棺師という職種はこの映画が有名になってから始めて知りました。仕事は、ご遺体をきれいにし、旅立ちの支度に着替え、お化粧をさせていただく。私たち看護師も患者さまがお亡くなりになったときにさせて頂いてます。
 看護師になって初めて死というものを目の当たりにしたのは、初めての夜勤の時でした。さっきまで温かったはずの患者さまの肌が冷たくなりかけている。息もしていない。私は何とも言えない気持ちになり、怖くなりました。頭では分かっていましたが、その時の私は生きていたときと亡くなってからの状態の変化に違和感を覚え、心がついていけなかったのだと思います。そして、それまで患者さまと関わってきたことが思い出され、涙が出そうになりました。主治医と先輩看護師と一緒に処置をさせて頂きましたが、自分は何をどう行えばいいのか…、という迷いがあり、どこから何をやればいいのかも分からなく、先輩看護師に言われるままに手伝わせて頂いた記憶しかありません。患者さまに声をかける余裕すらなく、ただ黙ってやりました。処置が終わり、ご家族が患者さまに会われると、「きれいにしてもらったね」と、優しく声をかけていました。そして、「こんなにきれいにしてもらい、本当にありがとうございました。本当にありがとう…」と私の手を取って涙を流しながら言ってくださいました。その時、自分が不甲斐ないと思っていたことが、申し訳ないと感じました。
 あれから四年が経ちましたが、何人もの患者さまを看取らせてもらいました。いまだに初めての看取りを思い出すことがあります。そして、看取りということに対して考えてしまうことがあります。何が正解で、何が間違っているかなどと言うことではなく、その人の人柄、性格、人生・・・様々なことに気を配り、ご家族の希望に沿うのが私たちにできる最低限のことであり、最大限のこと。

 誰もがたくさんの人との出会いと別れを経験すると思いますが、人の最期に立ち会えることは貴重であり、その時に抱いた感情や思いをいつまでも大切にしたいと思います。是非、『おくりびと』を見て自分の経験と重ねてみたい、そう思いました。
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