今から約20年前の娘が幼稚園の頃の話です。
夜中の3時頃「ママ、歯が痛い」と、揺り起こされた。背中をさすったりしながらなだめてはみたが、それまで痛みという経験があまりなかったせいか、「いたい、いたい」とパニック気味に泣き出した。夜が明けても日曜日だし「どうしよう」と私までオロオロとしてしまった。日中なら診てもらえるかなと思い、近くの大学病院に問い合わせたところ、「歯科の当直におつなぎします」と言われ「えっ?歯科の当直」と、自分で電話したくせに驚いていると、寝起きなのだろう、やや不機嫌な口調の女医さんが電話に出た。娘の症状を説明すると、すぐに診てくれると言ってくれた。ありがたかった。
救急受付に到着すると、暗い待合室は、座って点滴を受ける人、青い顔で痛みをこらえている人で混雑している。カーテンの隙間から見える診察室も医師や看護師が右往左往し忙しそうだ。その光景を見た私はすっかり我に返り、「こんなことで、大袈裟に来てしまい」と後悔する気持ちと不機嫌そうな女医さんの対応も気になりだし、落ち着かなかった。
おまけに、娘は慌てて内服させた鎮痛剤が効果を表したらしく、私とは反対に落ち着き始めた。ここは愚図ってほしいのに、と勝手なことを思い、「やっぱり大丈夫です」と誤り、帰ろうかな?どうしよう?とそわそわしていると、50歳くらいの看護師に、娘の名前を呼ばれた。私が、その看護師にどう挨拶したのかはすっかり忘れたが、暗い廊下を案内しながら、「歯が痛いのはつらいよね、我慢できないよね」と優しく娘に話しかけてくれ、「歯科医の当直は月3回くらいなんですよ、今日がその日でよかったですね」と私にも微笑んで声を掛けてくれた。私の様子を察し、そんな言葉を掛けてくれたのだと気遣いが心に沁みた。
歯科診察室で待つ女医さんも、すっかり目が覚めたのだろう、にこやかに診察室に招き入れてくれた。そして娘が怖がらないように、十分に声をかけながらレントゲンを撮影や、応急処置をし、私にも丁寧に説明してくださった。
すっかり元気になった娘と外に出ると、夜が明けはじめ、駐車場から見た病院は、古ぼけた建物だがとても輝いて見えた。対応してくれた看護師さん、女医さんに感謝の気持ちでいっぱいだった。
私もこんな医療人でありたい。その当時は休職していたが、早く職場復帰したいなと強く感じる出来事だった。
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